Crystalmemento

夜 / 骨壷 / 境界線

人体模型の粘膜

夏が終わるとなぜかいつも母親の頭がポロリと落ちてしまいます。この身体が母親のものであったことを忘れないように名前を書きつけていたら、他のいくつもの名前が書かれたがっていて、すでに書いてしまった名前がまったく知らない誰かの名前のようにも見えてきました。母親は下からぼくを見上げるばかりでなぜか名前を教えてくれないので、口をこじ開けると舌がどこにもなくなっていました。前の前の前の前の前の母親が赤いランドセルを背負ってくすくす笑うのにつられて笑っていたら自分の舌を切り取っていました。箪笥の上で笑う小さい母親の粘膜が思い出のように膨張していくのを見ながら、これをくっつけたら名前を教えてくれるかなと思いました。

どうやらぼくは被害者のようでした。だれか頭のおかしい人がこの部屋で何かをしたらしくて、警察がその人を探しているみたいです。話すことのできないぼくを保護した知らない大人が教えてくれました。発見されたとき、部屋にはいびつな人体模型がいくつも積み重なっていて、そのすべてに母親の名前がびっしり書いてあったそうです。

ぼくはいま、新しい母親を眺めながらまた夏が終わるのを楽しみにしています。