Crystalmemento

夜 / 骨壷 / 境界線

アンニュイの備考

街をひとつ開いた。動き回る腕や脚の、すでにそこにはないことをあえて忘却するための休日が続いている。向こうでは恋人がぼくと歩いていて、それは遠くからでも分かった。鏡は鏡でなくてもよかった。それは入口であり出口でもあったと思う。すべがないのはだれでも同じで、有限性に阻まれているのはぼくだけではないけれど、彼らはそのことに無頓着だ。鏡の向こうへと続く道はどこにも見当たらない。真空がすべてを飲み込んで、曲解された風景をおびただしい空洞が充たしている。どれほどの痛みを欲しただろう。未来はいつから麻痺していたのか。鳥影が羽ばたいていったその航跡に季節の残影が伸びる。光のにわたずみが冷たく視界を横切ると、血はまるで祝祭のように海のポケットに吸い込まれていった。腐爛した真昼の憂鬱は現実以下の魔法で脳室に偽物の幻像を並べ立てる。意地悪な漠の腹痛の中で、ニ度と目覚めない夢の中で、最後まで残された問いをゆっくりとなぞる。灰色はなぜ灰色でないのか、それを解決しなくてはならない。