クリスタルメメント

詩を書きます。

#006

指を丁寧に開いて秘められた末梢神経が空気に触れ始める頃、子宮内部から地獄の季節を聞いている精神が八月のバス停で降りた。精神とは数えられるものではない。しかし店員の目に見えるのは人間一人であることは間違いないのだから、何のためらいもなく喫茶店に入る。わたしはこの店内ではまぎれもなく一名様だ。名前などはいくらでもあるが、言語はただの通貨であって、お互いが同じ間違え方をしているならそれはその場では有効なのだ。残り時間が少ない。わたしは二度とこの街を出ないだろう。そこにある光を手にとってわたしたちはある限られた部屋でのみ素直になれるお互いの心を放牧した。嘘の鳩が歩き、嘘の感情が泣いている。なにも出来ないから嘘をつくしかなかった。「あなたの中の犠牲者を殺してしまって、それからはわたしの中に残った血液を洗い流すだけです」「きみが死ぬのはとても正常なことだよ」生きている幽霊が蝶の脚を引っ張ると古くなった壁がバラバラと剥がれ世界の輪郭が崩れ落ちると舞台裏から髭の男が現れた。「幽霊にならない女の子は世界の運営を邪魔しないからね。邪魔しなかったからね。寿命よりだいぶ早い腐敗で許してあげよう」何もわからないけど腐っていくのが気持ちよかった。命はこうやって使い果していくものなのだと思った。そこに鋭い光が充満した。いままでのすべてが夢だったかと思うほど強烈な光だった。素敵な獣への帰省の折だったわたしは全身で泣き叫んでいた。とはいえ、そうと知らされたのは数年経った後だ。目が慣れて様子が分かってくるにつれてその状況のあまりの恐ろしさにわたしはいろいろなことを忘れてしまっていた。そこにはわたしを覗き込む醜悪な顔があった。わたしは無力だった。並べられている冷たい器具の使い道は、そこに蠢いている大きな生き物に委ねられていた。