あらゆる場所で正確に降る雨。
ぬいぐるみは待っている。
人ひとり分の愛着障害を賭して。
やさしいわがままの治療のように秘密の鍵を合わせてみる。
一粒の泡。背景を汚す微炭酸の雨が夜を遠ざける。
まだですか。
もう少し。もう少し。
グミの歯車が宇宙の管理者に伝言を残す。
「またひとり壊れました」
お別れが済んだらまばたきは終わり。それがあなたのはじまり。
こんどこそ躊躇しないでください。
ぼくたちは発狂したぬいぐるみだよ。
蕾の上で結婚しました。万有引力を売ってください。定義は憑き物。弱さは落ちるのだ。無理数を告げる電気回路へと。偶然を配置する裁判官。病室に舌。唇には針を。空気すべての受け皿になる神経天文学は泣いていいよ。ヘビの解剖器具に相互作用を供して春休みを辞退する天使。薔薇の容疑者に見放された放電的な意志から無理やりな事故をひきだす霊体ピラミッドの上空に凝固していざなう天使だ。一般向けの天地を交換して単純な人が好きです。爪に疎外を塗る邪神性痙攣のアルファ。円周率に鳥がとまるように国家権力は伏線を温めている。巫女に恋う音階は忘れな草を踏みながら反世界にたたずむ。一歩、これがひとつ。遺されたものは少ない。呼吸する部分日食と水銀。そして晩夏。誰のものでもないあなたへ。
「あと何回死刑になりましょう?」
心臓の中の林檎を燃やして、呼吸に憑依する冷血さを皿に乗せる。靴に合うようにシンデレラをガラスに変えて、透明に塗りつぶしていく。人形になったぼくたちは永久に透き通って、記憶のままでおやすみを叫んだ。
後悔を過去に縛り付けて、時間は煙に化けて面影がきみに生きる。
流れ星を束ねて花束にするんだ。
ふたつの問いが答えにならないように運命の距離を詰める。
愛に似た発音が響くときみは消えてしまった。文字による超常現象。ひとつづきの時間をつねってみてもだれもいなくて、うそみたいだった。
電話が鳴り続ける誰もいない宇宙で、きみに付けられた名前が運命と食い違っていたとき、標本の蝶を食べました。
主語がない家で孤独を手放すこと以上に危険なことはありません。
きみたちから頭部を取り除けばせかいはすこし美しくなるね。
どれもうつくしい嘘でした。
すべて記憶のなかのように歩けたら嘘つきもそのままで真実でした。
わからないのはきみたちが孤独になれないからです。
グラスに注いだ星たちを飲み干していまぼくが夜になろう。
汚してもいいよ。だめになるよ。それがいいよ。せめてきみのネジを巻こう。
ふたりでもひとりが怖い。おかえりの花が一輪。せめてきみのネジを巻こう。
夢を見た。誰もいない。また目を閉じる。黒一色にノイズ。気の狂ったパレードを見ている。日常をつよく欠席して冷蔵庫で休む。猫のペンキを剥いだ紫陽花。誰かの電気信号がない。また夢を目で隠す。騙されておはよう。殺すことはないよ。便利な神を手のひらに乗せよう。
濡れた葉書が空に羽ばたき、そこからまた文字の蝶が飛び立つ。その後に来る雨上がりでさえも絶対を故意に誤植するようにできている。確実なものはなにもない。
「みなさんも逃げたほうがいいですよ」
天と地の間の人たちに向けた最後の手紙は溶けて流れる。
境界は死体のように抱きあっている。
風化するすべての不可視へ別れを告げなくてはならない。
海底に指紋をつけに行くのだ。
色彩が健忘した
見えるのに見えない空白
包帯に擬態する
不幸の天使
はじめまして
高級な雷の被害者たち
人格の区画整理
言葉とは
精神的な臓器から滴る血液
塗られた霊的なオブジェ
本物でないすべて
お気をたしかに
猫という天国
増殖する言語から逃げた
自己を置き去りにして
扉を閉めた