Crystalmemento

夜 / 骨壷 / 境界線

流れ星とクイーン

世界はまだ夢の中です。
時間の結び目がほどけるように息と未来を殺して、咲かない花を愛でること以外に残されたものはありません。咲かない花の夢であるぼくたちにとっての夢の交差点はまた12月24日から永遠だけ離れていくのだから、ねがいごとはいま全部叶えてください。二月的な感情のささやきに触れて、きっとどんなことばでもハートから溶け出した雪解けの陽射しでした。

絶望の愛玩を浴びる安い罪は宣伝になって干からびた少女は歌っている。才能なんて要らないのは、彼女が彼女になる天才だからです。運命に似合えば唇になるキャンディーの誘拐犯から声はいただけるから、朝焼けで焦げたトーストに甘い感情を塗って、未来から来た終わりの知らせは何気ない思い出の陰に隠していいよ。

混ざり合わないぼくたちの心拍数はやがて丸くなるけど、踏み外した地雷に気づかずにまだ生きているから、曖昧なアイデアで非合理的な結論を出そう。

嘘みたいなよろこびが青空を一瞬で闇に塗り替えて、星をちりばめる準備はもうできている。
愛に変わるドレスをハートのクイーンに着せたら、小指に七色の約束を結びつけて、それぞれのストーリーでまた逢いましょう。

聖者の葬列

制服の中身をくりぬいた。何者でもないきみがいた。ぼくは映画に出れたかな。反作用の恋人は秋。昼と昼のあいだで生きる。見放された尾てい骨にフォルテシモの快感がさす。制服の抜け殻は生きる。線を引く。境界は白く、そこで泡がはじける。

線の向こう側から無人の客席に向けた夏休みは言いたいことが言えない。
いつだって文字が叫ぶよ。

《革命を起こしましょう!》
《革命にぼくらを起こさせましょう!》

義務のなかの天使は膨張して偽りの生を共食いしている。より善いPeaceful暴力。何の役にも立たない善は善人を連れて甘美な死骸に回帰しなよ。おやすみ。朝だよ。きみは失敗したんだ。存在が夢でよかったね。

神のなかを骨壷を抱えて歩く無数の亡霊は雪の寿命が見える能力と引き換えに、恐る恐る千切りにした幻滅を墓石よりも高く積み上げて問う。

「血塗れの血液はどこからが外なのでしょう?」

左耳にHEAVEN。心臓にHEAVEN。手首からHEAVEN。
ぼくの蟻、皮膚を破って、ぼくに住んでください。
そして、あまねく罪を本能にください。

純粋接触のオブジェ

焼け焦げた人間のにおいが悠遠な雲として辻褄を合わせる午後の晴れてくる表情の後で音の雨が降ってくる。合法麻薬の主成分である寂しくなったうさぎが冷静になって言う。人格は水没して金魚に食べられていますよ。ふしだらな遠足で憂鬱を飼いならしたら、約束の丘でしてもいない約束を思い出そうとする羊の群れにはじまりの合図を。失われた黒魔術を今こそ取り戻すときだ。ロゴス以前の神秘主義的豪雨と知性の傘で自分の領域を欲張るのだ。

融通の利かない肌色の星座のカプセルの中でいつの間にかすり替わってしまう現実感の悪夢をうとうとしながら、世界史的な泥沼に澱み切った空気に含まれる悪意が含有率80%を超えてしまう前に、一瞬の歓喜は柵を乗り越える。

涙液が付着した仮想日記の断片をひとつのオブジェとして素因数分解された感情の過去holicにうなされて、そこで泣いているのはきみのレプリカではないですか? 
であるならきみも詩のブーケを受け取って運命と和解する必要がある。嘘じゃない嘘できみ自身を救って、いまいる世界のお星さまになってしまおう。
目覚めると映写機だったきみ自身を差し置いて、運命のスクリーンは何の意味もない十字架のまぼろしをそのまま反映させる。

ことばがあるからひとりじゃないなんて思えたんだ。だけど嘘だよ。
サルビアは待ち伏せする千年の郵便を越境して色立体の中を自在に咲き誇るのだ。

別次元の夢で見ているから、
ぼくに罪深くなってもっと生きてね。

桜密室をひらく

直感から白い雪が降ってくる。空気がきれいな街。街は自己分解をはじめる。あなたがたもそこに含まれていますよ。早くはじめてください。完全に透き通ってしまうまで。

「あそこでは雪だけが永遠なのよ」
降り続く蛍の勤勉な怠惰さから棚ぼたする彼女の日常を購読して、空は新しい星を見つける。地上へと降り立った足の生えた雪が霊長類を過去の遺物の方角へと洗い流していく。残された様子見の死骸が釣り合いのとれた人形になるために作者のいない夜をうろつくのだ。地平線と無意識の混濁がジンテーゼを放り投げて、やっとここにたどり着く。ぼくが密室に閉じ込められた時、なにかと契約したわけではなかった。
気づいているかな。
いま、夜のにせものと闘っているんだ。

首を吊る雀。人生に睡眠薬を盛られた。彼は、薔薇の噴水から飛び上がるいちごの血液を氷のつま先にダンスして、割り切れないミルクを掠め取った。そこに多量の睡眠薬が含まれていた。有毒な夏が四季を置き換えて鳥かごに咲かない花を飼っているのです。
静かになった鳥かごを揺らすために、噴水はまだ溢れ続けている。

いまが頂点であるような円環を率いて、もう二度と産まれませんように——。
逃れられない炉の中、開いたてのひらときみだけの不死鳥は溶けて祈りになる。相席の積み木を何度も崩しながら「ずっと予想外でいようね。桜が咲くまで、桜のことは忘れていようね」って約束したんだ。

運命は自由だよ。非常口を探そう。

迷子願い

霧と煙の重さを比べていたときの記憶を最後に、凍ったシャボン玉のなかに生き残ってひとり。あそこにたったひとりでいるぼくはかみさまでしょうか。それとも本物でしょうか。この世で一番素敵なリトマス試験紙の青を目指して雷鳴の抜け殻とともにすべて以外を吊るします。さあ息を吹き返しましょう。気をつけるべきは女または非女のステーシー。細めの首です。酸素と酸素の子どもが最後の針の上に乗った瞬間、痛覚ともお別れです。唐突に空白を差し挟むコンシーラーのつま先のようにゼロを基準とした生命の針はマイナスに振れることも珍しくないのです。

きゃらきゃらした女子高生は生きることが背徳になるまで針を回して嘘から抽出されるはずの真実を探し回っている。崩れ落ちる夜を捨てたあたりで背後から一月が襲いかかる。プリクラ特異空間のなかで過去と未来を完璧に忘却する瞬間に血液は沸騰する。そのたびに伸びるまつげと入れ替わる性。それらが何度でも初体験できる一回性のシャッターに切断されるまでさよならをおあずけされた柑橘系のアイドルは少し渚もろくなって「生きてることを忘れてあげたい」と言い残して消えた。

消えてゆく後ろ姿に伸ばした手の先に触れた忘却からの「わすれないで」という伝言を受け取って、それにまつわる事実は昔からある民間信仰に一変してしまった。釣り合いの取れなくなったぼくはぼくを葬ってわたしになった。そして息が空と重なるくらいに生を薄めて、690秒で総括できる思い出を待つことにした。

いったい誰が自分なのかすらわからないほど気持ちがすっきりしないまま、粒の中に充満する睡眠に沈没して現実感を水星に溶かしてみたら、さよならも言わずに行ってしまった彼に夢の中でまた会った。懐かしさの続編として大衆化された彼からの誘いを素直に受けられないわたしは「もう迷子にはなれないのかな」と呟いたすぐ後で左の目から痛いほど果汁があふれた。だって月光の麻酔にかかったわたし以外、本当はもうだれもいないのだ。有り余るほどの声を封じてわたしを包むうつくしい孤独は楽園としてそこに存立していた。それでもまだ、愛は出来上がりつつある手紙となってわたしの手を動かしている。

ねむりのちはれ

夢よりも深い落とし穴に落下した雨しずくが蒸発した瞬間、時間はどこかにいってしまった。天使はまだ円周率の牢獄を旋回している。
結果として古くなった世界のぼくは自分のためだけにぼくとお別れして、
いつまでもぼくたちは血管を流れる三途の川を渡っていたんだ。

クラスには欲望の病にとり憑かれた子が行儀のよい席に着いて懺悔の手記を綴っている。心にしっかりと鍵をかけて、あの日のことばを刻みつける。あれを発したのはなんの先生だったのか今ではもう思い出せない。
「紙を増やしたいのなら恐怖を与えなさい。あるいは希望を添えなさい」
先生は結局これしか言っていなかった。隣の優等生は涼しい顔をして手を動かしている。"洗脳された彼に洗脳されたわたしはきっとかわいい女の子だから諭吉十枚で兄と弟を取り替えっこしてわたしはきっとかわいい女の子だから首が折れてもわたしはきっとかわいい女の子だから手足を間違えてもわたしはきっとかわいい女の子だからここは童話の世界なのだわたしはきっとかわいい女の子だからわたしはぜったいにわるくないわたしはきっとかわ"と書かれた部分が彼女の脳内の寂れた駅のホームで滅びの日を待っている。内容は誰でも大差ないだろう。ことばは理性を嫌悪している。自由を制限されるからだ。真っ暗闇の空を瞬いていたいのだ。気ままに繋ぎ合わせて詩の星座をつくるのだ。やつに味方はいない。地下に横たわらせるのは思ったよりも簡単だ。

それでも幻聴は続くかぎり続くが、それはただ続いているだけだ。欠けて拘束を解かれた方の心にはなんの不都合もない。その日々の隙間から漏れだした譲られない光は憂鬱な人間の牧場にほんの少し心地よい刺激を与える。天井に張り付く嫌らしい責任者が創造性を平均化のうちに没し去る。そして、ああ今にも角砂糖から甘さだけが溢れ出しそうです。とはいえ通りすがりの宿主を駆り立てる世間話に参加する呪文の奥様に過ぎない不可能のひとつもどうにもならないのならそれははじめからきみのものではなかったのだ。

露ほどの生命が混ざり合った雨は鏡に映らないように存在している回路を通って天へ向かう。
電気信号のえんぴつが輪郭線上をやわらかくなぞって土に還るまでもない解放の先へ。
そして罪は記憶とのハネムーンにおけるもっとも楽しい時間の海に溶けてなくなる。
悪魔は落ちる。無数の天使と存在を等しくして。
全方位へ遊びを続けるのだ。
鳥は鳥に似ているのではない。
運命とはあなたのことです。
各位、理解を。

放課後の宇宙で

空は黒くなる仮説です
いつか見えなくなる
仮説のぼくはまだ見えていますか
空虚が充満する時間だよ
部屋が思い出す
ここにはだれもいなかった
直後
きみとぼくが燃えました
消えたものはありましたか?
この無意味なフラスコから